著者・井口淳子氏が、
研究のために訪れた中国で出会った「人」
をテーマに、記憶を綴った一冊です。
装幀は野田和浩氏、イラストは佐々木優氏が
担当されています。

こちらの書籍では、渋谷文泉閣の新たな製本方式
【D-SPINE】(ディー・スパイン)を採用いただきました。
　
2020年夏に、当社が独自開発した
「デザイン背巻」の技術です。
紙やクロスなど、素材や色選びが多彩になり、
自由度がグンと広がった、デザイン性あふれる
「背巻」が楽しめるのが【D-SPINE】です。

【D-SPINE】では、背巻に「印刷」や「型抜き」も
取り入れることができます。今回はそのメリットを
存分にご活用いただき、「餃子」が連なるような
「波型」に抜いた背巻のデザインが、目を楽しませます。
装幀家の方の「遊びごころ」も感じるつくりです。

「背」に、表紙とは別の素材を用いる製本には
「継表紙」（つぎびょうし）もありますが、
通常の継表紙のような「直線」的な繋ぎではなく、
「型抜き」で餃子のぷっくり感が表現された、
この「曲線」の活用で、より立体的なデザインに
仕上がりました。

表紙の平部分には、大和板紙の「洛陽α」
背巻には「ヴァンヌーボVナチュラル」の
用紙が用いられています。

敢えて淡い特色1色で印刷された腰帯や表紙は、
派手さを抑えたことで、本文中に散りばめられた
イラストを引き立てる効果となっており、
この本の柔らかな印象が際立っています。

帯の裏面には、表面とは違い、
著者の記憶が溢れるように、たくさんの人々の
多彩なイラストが、絵巻物のように描かれています。
こちらもぜひ、お楽しみください。

また今回は、背巻と腰帯に「ベルベットPP」を
用いているのもポイントです。
「ベルベットPP」は、しっとりとした手触りで、
上質感のあるマットな見た目のPP加工。
本を手にした際、手に馴染むような
心地いい、手触りの良い本になります。

出版物としては、まだまだ採用例の少ない
【D-SPINE】ですが、この度のように「遊び」を
造本に取り入れていただき、当社にとりましても、
うれしい実績となりました。
ぜひお手に取ってご覧いただけますと幸いです。

本作品は「第55回 造本装幀コンクール」にて
読書推進運動協議会賞を受賞しました。