
授業で訪れた展示会で「製本」との出会い
愛知県出身で、名古屋市にある高校で印刷や出版などを学ぶ学科に通っていました。授業の一環として、毎年、印刷機材関連の展示会を訪れます。そこで渋谷文泉閣の展示に出会い、惹かれました。以前から気になっていた「なぜ本はこうなっているんだろう」という様々な疑問に答えてもらい、製本の面白さに感動しました。夢中になって話し込み、集合時間に遅れるほどでした(笑)。
翌年の 2 年生の時にはブースの担当者に名刺をいただき、3 年生になって進路を決める際、渋谷文泉閣で働いてみたいと先生に相談しました。上製と並製、両方の製本を行なっている会社は全国でもあまりなく、もう渋谷文泉閣しか見ていませんでした。先生が名刺をもとに電話をかけてくれ、そこから面接、入社へとつながりました。
「本が好き」だから、難しい仕事にもやりがい
入社して最初に配属されたのは、本の背を糸で綴じる「かがり」の部署。さまざまな紙の特徴を把握し糸で綴じる「かがり」は、伝統的な上製本の技術で、丈夫な本をつくる大切な工程です。そこで経験を積み、今は「手作業」という部署にいます。
「手作業」はその名のとおり、人の手で対応する工程です。機械では難しい作業を担い、ドイツ装の表紙の手貼りや本フランス装のくるみなど、一冊一冊丁寧に手でつくっています。ちょっとした修復作業を依頼されることもあります。
最近は、とてもこだわった装幀や作業の難しい本が多くあります。正直なところ「面倒だな」と思ってしまうこともありますが、だからこその、やりがいもあります。作業に手こずりながらも、やっぱり「本が好き」なので、きれいに仕上げられるよう工夫し、できあがった時の達成感の方が勝っています。

憧れていた「信州の名工」の技を受け継ぐ
手作業の部署に配属になった翌年、ずっと希望していた手製本にも関わるようになりました。「信州の名工」(卓越技能者知事表彰)を受賞した当社の技術者・小林宏一さんに、その技を教えてもらうことが入社前からの憧れだったので、とうとう念願が叶い、本当に嬉しい思いでした。
手製本とは、主に「束見本」のこと。装幀や仕様を確認するために、本番と同じ用紙・頁数でつくる見本で、いちから手作業で仕立てます。本の設計に必要となる「束」(つか=本の中身の厚さ) を確認する意味もあり、重要な工程です。用紙や頁数を誤った見本をつくれば、本番時のトラブルになりかねません。
最初の頃は、目の前の作業に追われ、素材を間違えたり、折丁の台数が少なかったりと、失敗も多くありました。今は自分の作業の意味を考えられるようになり、徐々に任せてもらえる作業も増えてきました。それでも、まだまだ小林さんにしかできない「技」があります。いつかその技を学び、跡を継げればいいなと思っています。