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「現代の名工」平成19年度卓越技能者厚生労働大臣表彰受賞

厚生労働大臣が卓越した技能者を表彰する「現代の名工」に、当社最高技術顧問の渋谷一男が受賞の栄誉に輝きました。

厚生労働大臣が卓越した技能者を表彰する「現代の名工」に、今年度当社最高技術顧問の渋谷一男が受賞

特別寄稿

ユニバーサルデザインブック「クータ・バインディング」の開発とエコブック「PUR製本」


クータ・バインディング
クータ・バインディング
クータ・バインディング
過日、朝日新聞2006.10.19掲載「私の視点」で日本福祉大学教授 森本正昭氏が次のような内容を投稿された。「ユニバーサルデザイン(UD)の視点が、ありふれたものほど欠落していることがある。一例は本である。人は本を読むとき、片手で本をしっかり押さえ、もう片方の手でページをめくっていく。かなり力がいることに気がつく。ほとんどの本は、ページを開こうとしてもすぐさま閉じてしまう。開いた状態を維持出来ない。身体にハンディーのある人はもちろん、高齢により手の指先が震える人の読書は、見たいページを開くのにかなり時間がかかる。健常者でも、たとえばパソコンソフトの操作説明書を開いたまま、パソコンを使おうとすると、閉じてしまう本が多い。本の製作者は、どんな状態で読まれているかを想像して本を作らないのだろうか。出版社には 本の専門家が多数いるはずである。もっと読書スタイルに注目したデザイン上の配慮を積み重ねていくことにより、大多数の障害を持たない人にも利益になる価値の変換は起こるはずである。本にはまだまだ改善の余地が残されている。」

実はこの記事が掲載された時は、森本教授が指摘した問題を解決する、新しい製本方法である「クータ・バインディング」はすでに出来あがっておりました。後日、森本教授に来社を願い、私が開発した「クータ・バインディング」の数々をご覧頂き、改めてご意見等を頂く機会がございました。

今回私が平成19年度『現代の名工』を受賞するに当り、その大きな要因ともなったこの手を離しても閉じない製本「クータ・バイディング」の概要をご紹介したいと思います。

新たなる本の文化(価値)を見いだす

製本における基本理念とは、
  1. 開き易く、読み易いこと
  2. 丈夫であること
  3. 美しいこと
これらが製本上求められており、この条件を満たすには、これまで糸綴り上製本(ハードカバー・ホローバック)が一般に知られております。

「手で押さえなくても読める本が欲しい」

手の不自由な友人のこの一言がきっかけとなり、私は「クータ・バインディング」開発に取り組みました。従来の並製本(ソフトカバー)は、先ず強度を考え、読み易さを犠牲にして丈夫に作ることを優先しがちでした。一般の人も開いた本は閉じてしまっても「しょうがない」という観念があるため、残念ながらこのような要望はあまり聞かれませんでした。従来の丈夫さを優先する並製本(ソフトカバー)の製本方法では、手で押さえなければ閉じてしまう欠点があり、読み易さでは読者に不便をかけていたのです。

開き易さと本の丈夫さは、相反することなので、以外と難問で試作を繰り返す日々が続きました。この解決の糸口は、手作業製本の時代に辞書などの背に貼ったクータ(空袋)の利用でした。試作してみると、本文の背と表紙の貼り合せ部分に空洞が出来て、まるで角背のハードカバー・ホローバックを思わせる美しい出来映えとなりました。

読む人に優しい製本方法は考えついたものの、製本コストを克服しなければ、この本の普及は不可能であります。最初に行ったのは、クータ貼機の開発であり、機械メーカーに二年越しの協力を願って、量産化を可能とする機械が完成しました。

〔新型接着剤PURとの出会い〕

ECO BOOK PURマーク 次の問題は、製本の基本理念“丈夫であること”でした。エマルジョンから始まり、ホットメルト(EVA)の各種類の接着剤を使っての試作を繰り返しておりました頃、新型接着剤PUR(ポリウレタン・リアクティブの略)とめぐり合いました。この新型接着剤PURは、強力で紙の繊維まで浸透し、空気中の湿度に反応して硬化しながらフィルム状の被膜を作ります。この接着剤を使用して、丈夫で手で押さえなくても閉じない美しい製本が実現しました。
この新型接着剤PURは、従来、自動車の内装(耐熱)、スノーボードの合板(耐寒)、建材の合板(耐久)、紙オムツの製造(耐水)、合成繊維の接合(耐油)等に使用されておりました。

新型接着剤PURを使用した製本の利点として

  1. 耐寒耐熱性
    -30℃から130℃まで 過酷な気象条件の地域でも壊れない。
  2. 耐インキ溶剤性
    インキ溶剤に変化せず接着強度を維持する。
    従来のホットメルト(EVA)は、インキ溶剤に侵され、特に全面カラー印刷の見開きの本など保管状態にもよるが、半年から3年位で接着剤のホットメルトが溶けてきてページが抜け始め、最終的にはバラバラになってしまう。
  3. レイフラット性
    伸縮性の点でも優れており、平気で本を水平に開くことができます。
  4. リサイクル性(環境対応)
    強い被膜を形成するのでちぎれることもなく、また溶解して再生紙に溶け込むこともないため、用紙再生時の分離が容易であります。

〔ユニバーサルデザイン「クータ・バインディング」の誕生〕

このように見易くて丈夫な本が出来たのは、
  1. 本文の背にクータ(空袋)を貼ったこと
  2. 接着剤をPURにしたこと
今になれば簡単なことと思えるかも知れません。実際に使った方から「分厚い本でもコピーを取るのに便利」「本を見ながら料理をつくる時にも便利」などの評価を頂き、一般の人にも大好評。「もっと早く開発出来なかったの」との声もあり。利用する読者の立場を考えた製本の必要性を感じました。

〔紙媒体から電子媒体へ〕

出版不況が長期に亘って続いている原因としていろいろ挙げられており、この窮状打開の為に、業界関係者の方々も日夜努力し頭を痛めていることと存じます。
スポンサー広告も紙から電子画面への時代へと変革しており、大手新聞社でも大きな危機感を募らせていると聞く昨今であります。
一例を挙げます。一冊の立派なレシピ本があります。実際にその本を見ながら料理をする時にページが閉じてしまい不便です。パソコンなどの電子画面で立体的に、手の動かし方まで見れるソフトが欲しい。今日の夕食の献立の段取りも携帯電話で見れる時代になりました。
紙媒体から電子媒体へ大きな流れがきています。今のような読みにくい製本のままだと、なおさら本離れを促進してしまうと心配です。読み易い製本方法は、本離れを防ぐ有力な手段ともなると考えます。

〔クータ・バインディングに適した本の一例〕

人と地球にやさしいクータ・バインディングマーク
  1. 学習書
    教科書・参考書・楽譜
  2. 実用書
    料理本・パソコン等取説書・辞書・手引書
  3. ノート類
    ダイアリー・家計簿・スケッチブック
  4. 写真集
    美術書・作品集・他
  5. 児童書
    絵本・童話・書き方・習字
  6. 医学書
    解剖書・薬学書・実験書
  7. 地図帳
  8. 商業カタログ
    ※ご採用いただいた各メーカー様に好評をいただいております。
    コピーを取るのにも便利。
  9. 趣味の本
    将棋・囲碁・編物・工作・書道・絵画・その他
  10. 文学書
    ※両手を離しながらでも楽に読めます。
    (既に、小学館様、漢字検定様、全音様、信濃毎日新聞社様などにご採用頂いております。 )
上記の出版物を含め幅広い分野での需要にお応えするために、今後さらに特許部の表紙クータ貼り加工の提供と技術協力で、製本会社、印刷関係会社との連携を深めながら、与えられた使命の達成に邁進して参りたいと思います。
(平成19年度『現代の名工』受賞記念寄稿)
〒380-0804
長野県長野市三輪荒屋1196-7
株式会社渋谷文泉閣(長野県印刷工業組合員)
最高技術顧問 渋谷 一男
TEL026-244-7185 FAX026-243-3257
URL:http://www.bunsenkaku.co.jp/
E-mail:shibuya:bunsenkaku.co.jp


プロフィール
渋谷 一男(しぶや かずお)
昭和21年7月25日生、64歳

昭和39年
東京・牧製本印刷株式会社にて技術研修の傍ら、東京製本高等職業訓練校で学ぶ。
昭和42年
株式会社渋谷文泉閣に入社。
昭和51年
代表取締役に就任。
平成15年11月
卓越技能者長野県知事表彰(信州の名工)受賞
平成17年7月
代表取締役を退任し、最高技術顧問として新しい製本方法の開発・普及に 専念する傍ら、製本の品質、技能向上の為、後進技能者の指導に努める
平成19年10月
『現代の名工』受賞

主な著書
「製本技術マニュアル」(非売品)
PUR/クータバインディング解説書「Change」(非売品)